10月26日、「成年後見制度の課題と実務」をテーマに群馬県富岡市が開催した成年後見セミナーで、後見の杜代表宮内康二が講師として登壇しました。後見の杜に寄せられた事例をもとに、法定後見の利用が必要か、他の手段はないかを医療・介護の多職種の関係者が考えました。無責任に利用をすすめるだけの自治体が多い中では、利用者の立場にたった珍しい取り組みではないでしょうか。宮内は、「法定後見制度は、日常生活を家庭裁判所の管理下に入れること。できるだけ消極的に考えてほしい」と話しました。
法定後見の課題を行政が説明
法定後見制度は、成年後見制度のうち、家庭裁判所が後見人を選ぶもの。知らない弁護士や司法書士が,後見人に選ばれることが多く、苦情も少なくないのですが、自治体に積極的な活用を呼びかけ続けています。
セミナーの冒頭、富岡市の担当者が法定後見制度について解説。内容をただ解説するだけでなくて、課題として、利用者は民法上「制限行為能力者」と烙印を押され、一度利用し始めると一生やめられない、利用者の意向をくまなくても運用できる、「私たちのことを私たち抜きで決めないで」という障害者権利条約に沿わないなどと指摘しました。
法定後見制度の課題
・利用者は民法上、「制限行為無能力者(単独で契約などの行為ができない人)」と烙印を押される。
・一度利用をし始めると、判断能力が回復しない限り一生やめられない。
・後見人を選べない・後見人の仕事を評価する時間がない。
・利用者の意向を踏まえなくても適用できる。
・「私たちのことを私たち抜きに決めないで」という障害者権利条約の趣旨に沿わない。
(富岡市福祉課・高齢介護課)
※富岡市では、後見制度について、分かりやすい動画やリーフレットを作成しています。
国連も廃止を勧告し、日本政府も初の制度見直しに向けて検討を開始しています。
法定後見で便利になったのは周りだけ、権利制限はむしろ拡大
「法定成年後見制度は対象者の周囲の人が便利にしだけで、本人のためにはなっていない」
基調講演で、そう指摘したのは、東京都立松沢病院名誉院長の斉藤正彦医師です。
法定後見はノーマライゼーションや権利擁護の制度と考えられていますが、被後見人を「無能力者」と決めつけて代わって法律行為を行うという点においては、明治民法からの禁治産制度と根本は変わっておらず、保佐人、補助人にも代理権を認めることにより、むしろ権利制限を受ける対象を拡大しただけと指摘しました。
欠陥のある成年後見制度が重宝がられてきた背景にあるのが、介護保険創設以降の自己決定至上主義。斉藤医師は、「自己決定権は自己責任と裏腹」。ケアのプロとしての責任放棄であるという指摘です。
本来は、医療・介護福祉関係者も、主体的に意思決定に関与し、結果に対してもみんなで責任をもつ。共ににいきることができる支援がケアであると話しました。
斉藤医師の詳しい主張はこちらの過去記事からもご覧いただけます。
このケースに法定成年後見が必要か? 適切か?
では、法定後見を使わないということを、具体的にどう考えればよいのでしょうか。第2部では、地域の医療・介護・福祉関係者が登壇。後見の杜で相談を受けた事例をもとに、代表宮内が進行しました。
身寄りのない高齢者Aさん
基本情報:81歳 女性 独居
健康状態:転倒骨折のため入院中
生活状況:介護サービス利用なし 自宅(持ち家)あり
病院主訴:金銭管理のしはらいがないと、入院費の支払いも困難。今後は施設入所が必要だが、家を売らないと生活費がたりないと思われる。
本人主訴:自宅は売りたくないが、一人暮らしもできない。庭の選定を頼みたい。お金の管理を頼みたい。
さあ、あなたならどうしますか
病院ではお金の扱いまではできません。この方は、金銭管理を頼みたいと意思表示できるようなので、社会福祉協議会の日常生活自立支援事業で金銭管理を頼むと思います。
社協の事業を利用すれば、ご本人の意思を確認して、預金の中から入院費のお支払いをお手伝いすることはできます。ただ、家をうることのお手伝いはできません。
この方の判断能力を医師としてはどのようにチェックしますか
長谷川式、MMSEなどの心理検査、入院中なのでようすを観察して、場合によっては、退院前訪問をして、何ができていて、できていなかったか調べることになると思います
「高齢者や障害者の生活で必要なのは、サービスの費用の支払いなどこまかな金銭管理。これまで見てきて、後見人に代わりにやってもらわなければならないのは、不動産の売却や保険の請求などごく限られた業務です。そのためだけに法定後見を利用すること、生涯にわたり、本人の権限を制限し、家庭裁判所の管理下におくことになります。できるだけ消極的に考えてほしい」と宮内は説明しました。
不動産を売却する場合も、問題になるのは、登記を行う場面。本人に直接あって、意思確認が行われます。しかし、担当の司法書士により、不動産を売却できる意思能力があるかの判断が異なるために、一人にダメといわれても、別の司法書士にあたってみるのも1つの方法ということです。
では、次の事例はどうでしょう。
身寄りのある高齢者Bさん(娘からの相談)
基本情報:81歳 男性
健康状態:中程度の認知症
生活状況:要介護3 特別養護老人ホーム入所予定 自宅(持ち家)あり
娘の主訴:父親の「預金残高」「加入保険の内容」「持ち株の現況を把握したいが「成年後見制度を使わないと教えられない」と金融機関から言われた。できれば成年後見制度を使いたくない。
法定後見を利用するきっかけとして、一番多いのが金融機関との取引だ。たとえ。子どもであろうと厳格。「後見人がいないと貯金の明細は教えられない」と言われる場面は結構多そうだ。こういう場合は、認知症であっも、本人をつれていき、教えてほしいと言ってもらえば、ほぼ100%解決すると、宮内は話しました。
セミナーでは、高齢者、障害者、未成年など多くの事例を検証し、共有しました。
法定後見を求めるのは、病院,施設や銀行など取引先であって、本人ではありません。それをできるだけ回避するのがワザ
自分もいずれ後見制度が必要かもしれませんが、任意後見を使います。自分のことをよく知ってくれている人に頼みたい。裁判所には絶対に決められたくない。
会場からは、「法定後見制度について知らないことばかりだった。後見人を自分で選べないことは一番人権を損なうことではないかと思いました」など感想が寄せられた。
なお、10月31日付で講談社より「認知症になっても自分の財産を守る方法 法定後見制度のトラブルに巻き込まれないために」(宮内康二著)が出版されました。あわせて、お読み下されば幸いです。