裁判所に頼まれ「バイトで鑑定」に潜むリスク

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鑑定書は原則開示なので丸見え、”君子危うきに近寄らず”が正解

 成年後見制度の鑑定を引き受ける医師がいます。後見・保佐・補助の基準が怪しい時に、よく鑑定を引き受けるものだと思いますが、時間に対する報酬額を考えると決して悪くないバイトと言えるでしょう。画像も取らず、既に出されている診断書をもとに、90分程度の面接を経て、2枚程度の文章を書けば、10~20万円もらえるからです。1本15万円として、3日に1回月10本で月収150万円になります。月4本でも60万円ですから、病院が休みの日に後見の鑑定をしている医師も散見されます。お金も、裁判所が、事前に徴収してくれますから、とりっぱぐれもなく、請求事務も簡単です。

 仕事柄、多くの鑑定書を見ていますが、鑑定内容のほとんどが、3千円から1万1千円程度の診断書や、福祉職による本人情報シート(無料)の内容を写しただけのことはしばしばです。これで15万円ですから、鑑定料を払った家族や患者さんが怒るのも無理はありません。 

 裁判所に使われる鑑定医が急増しています。能力を鑑定する手続きなのに、亡くなったお父さんの遺産はどのように分けるつもりなのか、後見を外したら保佐や任意後見に切り替えるつもりはあるのか、今ついている後見人の報酬が高いことが不満のようだがいくらならよいのかなど、従来であれば聞かなかった内容について根掘り葉掘り、しかも、本人ではなく、家族に聞く鑑定医が増えています。鑑定が終わって、数週間たち、電話で、追加質問をしてくる鑑定医もいます。いよいよ怪しい限りです。

 自治体の要望を踏まえ鑑定する医師もいます。裁判所から鑑定することになった情報を聞きつけた高齢福祉課の職員が、まだ患者さんを診ていないタイミングで来院し、「後見でお願いしますと言われた」という医師もいます。突き返す医師もいますが、大方は、特にいわゆる町医者は、自治体の要望に従って書いてしまうことがほとんどです。 

鑑定書は家族や本人に原則開示されます。鑑定書をゲットし、内容を精査し、おかしいと思った患者さんやご家族は、他の、複数のドクターにも診てもらい、鑑定がいかにインチキであるかを浮き彫りにしていきます。

医師が、到底聴かないことが書いてある場合、裁判所や自治体の入れ知恵による鑑定につき教唆ないし嘘の鑑定であると、裁判所に苦情を入れたり、医師を相手に裁判を起こしたり、医師会や厚労省に苦情を入れることもあります。 割の良いバイトだからといって、目の前の患者の能力を見ず、仕事をくれる裁判所や自治体の言う通りに鑑定書を書くことは、これ以上ないリスクと言えるでしょう。

君子危うきに近寄らず、医師の本文である治療に専念し、後見の鑑定には手を出さない方が身のためのような気がするのは私だけでしょうか。

家事事件手続法
(精神の状況に関する鑑定及び意見の聴取)
第百十九条 家庭裁判所は、成年被後見人となるべき者の精神の状況につき鑑定をしなければ、後見開始の審判をすることができない。ただし、明らかにその必要がないと認めるときは、この限りでない。
(成年後見に関する審判事件の規定の準用)
第百三十三条 第百十九条の規定は被保佐人となるべき者及び被保佐人の精神の状況に関する鑑定及び意見の聴取について、第百二十一条の規定は保佐開始の申立ての取下げ及び保佐人の選任の申立ての取下げについて、第百二十四条の規定は保佐の事務の監督について準用する

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