医師が知っておくべき後見五カ条

目次

1.後見・保佐・補助、迷ったら軽い方にチェック!

後見類型について

 後見類型は、「お金が絡むことについてはいつも何もわからない状態」を指します。つまり、コンビニやスーパーで買い物ができたり、レストランで注文できるようであれば後見ではありません。銀行のATMでお金を下ろせるなら後見ではありません。千円札と一万円札を見せて、「どちらの価値が高いか」と聞き一万円札を指すようであれば後見ではありません。
 
施設に入って空き家になった自宅を売るかと聞かれ、「誰も住まないから売っていい」あるいは「子や孫にあげたいから売りたくない」と言えるなら後見ではありません。後見を始める手続きに本人の同意は不要です。
 
なるほど、本人に内緒で後見を始める手続きが取られてしまうことが多いわけです。後見類型の運用が始まると被後見人となった患者が銀行へ行って残高を聞いても門前払い、お金を下ろすことも許されません。後見人に「この老人ホームがいい」と言っても「被後見人のくせに何を言う」ということで意に沿わない施設に入れられてしまうこともしばしば、「被後見人に口無し状態」となります。

保佐類型と補助類型について

 保佐類型と補助類型は、お金に絡むことに関してわかることが一つ以上ある場合を指します。両者の区分は曖昧ですが運用面では大きな違いが生じます。裁判所に、保佐を始める手続きをとるにあたって本人の同意は不要ですが、補助を始める場合、本人の同意は必要不可欠。

 つまり、保佐は後見類型同様、本人の知らないところで始まることがありますが、補助の場合、本人不知の開始手続きはありません。保佐開始の審判が出てからは、被保佐人となった患者が以下の行為をするには保佐人の同意が必要不可欠となってしまいます。

・銀行からお金を下ろす  
・お金の貸し借り  
・不動産の売買や貸借
・自宅の増改築や大規模修繕 
・誰かの保証人になる
・相続や贈与の決断
・裁判を起こす     
・その他
 
例えば、被保佐人が、「温泉に行きたいから銀行のお金を下ろしたい」と言っても、また、銀行が「うちは預貯金を払い戻しても良いですよ」と言っても、保佐人が「だめ」と言えば、お金があってもお金が下せず温泉に行けません。しかし、補助の場合はそのような制限を受けることはほぼありません。

周辺事情

 「いずれ後見になるから保佐や補助ではなく後見でお願いします」というオーダーには応じないようにしましょう。誤診・偽造につき後に問題となってしまうからです。「類型区分は判然としないからどれにもチェックしないで出す」という医師もいますがある意味正しい運用と言えるでしょう。

 類型をめぐって患者が被る制限や医師のリスクを考えると、最終的には裁判所が決めることでもあり、より軽い方にチェックしておくことが無難と言えます。

2.診断書を引き受ける手続きを確認!~本人以外からの依頼に要注意~

 診断して費用を得るには医師と患者の間で準委任契約が成立しなければいけません。

 しかし、「成年後見制度の診断書を書いて欲しい」と言ってくるほとんどは患者以外の人、つまり、診断に必要な契約が成立していないことがほとんどなのです。 患者からの依頼で診たとして、その結果が後見類型であれば、患者に依頼能力がないと自ら認定したのと同義になりますから、医師と患者の間の契約が成立しません。

 頼まれていないので診断書も出せず費用ももらえないはずなのです。医師の責任感から、あるいは、患者以外の家族、弁護士、自治体等の意向に押し切られ、法的根拠なく本人を診断し費用を得るのは医師にとってリスク以外の何物でもありません。

成年後見制度の診断書の作成を断っても、生死に関わる緊急性がないためいわゆる応召義務に違反しないと思われます。後見制度の診断書を引き受けるなら、手続きの正当性を十分に確認すべきでしょう。

3.後見人が本人の医療や介護に無頓着な場合は家裁へ通報!

 必要な医療や介護を受けさせない後見人がいる場合、二つの方法があります。

 一つ目は、後見人に、「なぜ、この医療等を受けさせないのか」と書面で照会すること。患者の権利に関するWMAリスボン宣言にある「法的無能力の患者」に記載された通り、「患者の代理人で法律上の権限を有する者、あるいは患者から権限を与えられた者が、医師の立場から見て、患者の最善の利益となる治療を禁止する場合、医師はその決定に対して、関係する法的あるいはその他慣例に基づき、異議を申し立てるべき」でしょう。

もう一つは、裁判所に苦情を入れること。裁判所は、後見人を選び、報酬額を決めるのみならず後見人の業務を監督する機関です。弁護士等の職業後見人は、患者よりも仕事をくれた裁判所を見る傾向が強いので、ケアカンファレンスに参加しない、参加しても意見がない、緊急時や夜間早朝祝祭日の連絡が取れない場合なども、裁判所に苦情を入れると状況が改善されると思います。

4.後見等を終わらせる取消の診断書~この作成には是非応じてください~

 後見制度を使った人の不満で多いのは、「家族だから自分が後見人に選ばれると思って手続きをとったのに、見ず知らずの弁護士が後見人になった」という人選面です。2番目に多い不満は後見人の報酬額です。3番目に多いのは、財産だけ見て、本人の健康面に興味がない後見人に対する不満です。以上につき、「後見制度をやめたい」と言う人は少なくありません。

 制度上、後見取消・保佐取消・補助取消という手続きが用意されています。後見人等が嫌だからという理由ではなく、「後見なら保佐以下」、「保佐なら補助以下」、「補助なら自立」という診断書により取り消しが視野に入ってきます。

 取消の診断書の雛形は開始の雛形と同じです。病気が治らなくても、取引能力が向上したり代わりにしてもらう行為が終了したとなれば取消の対象になってきます。

5.そもそも本当に後見制度が必要か?後見制度に替わる方法

 後見制度を使わなくても何とかなることは多いです。実際、後見制度の対象となる認知症、知的・精神障害等を持つ人は1千万人以上いますが、後見制度を使っているのはわずか25万人程度、残りの975万人は後見制度を使わずに医療や介護サービスを受け、不動産や銀行とのやり取りができているのです。

 つまり、後見制度の必要性は、①本人が認知症で、本人独りでは取引することができないからだけでなく、②取引を支援する家族等の支援者がいないから、③家族等がいても銀行等が後見制度の利用を取引の条件にしているから、というように支援者の有無や取引先の出方を含め考察するのが実際的です。

 ついては、成年後見の診断書の作成を求められた場合、「取引を支援してくれる人はいないのか」「取引先に後見無しで何とかならない聞いてみたらどうか」と診断の前に助言して頂けると不必要な制度利用を回避することができます。実際、認知症でも、家族等の支援者と一緒なら預貯金を払い戻す銀行が増えています。

 各自治体の福祉課に紐づいている社会福祉協議会の「日常生活自立支援事業」も後見制度に替わって同様の効果をあげる手段です。ある程度の判断能力があれば、社会福祉協議会と契約し、1回1時間1500円程度の利用料で、銀行へ行ってお金を下ろしてきてくれたり、入院等の手続きを一緒にしてくれます。後見制度との違いは、不動産や相続などの大きな取引を支援の対象としていないだけで無能力宣告を受けることもありません。

 NPO法人なども同様のサービスを安価に提供し始めているので、金銭管理サービス、病院・買物同行サービス、というワードで検索すると地域にいくつかの事業者が見つかるでしょう。

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