医師(患者)からみた成年後見制度の課題と対策② 意外に高い!?後見報酬

一般社団法人後見の杜(宮内康二代表)が2023年12月2日、開催したシンポジウム「医師(患者)からみた成年後見制度の課題と対策」レポート第2回は「後見報酬」を巡る議論を紹介する。基本報酬に加えて、ボーナスもあり、結構な報酬額となっている。利用者側からみれば、お高いということになる。(ジャーナリスト・川名佐貴子)

【ディスカッション参加者 】
進行
甲斐一郎 東大名誉教授 日本老年学会前理事長
参加者
斎藤正彦 都立松沢病院名誉院長 精神科医
川畑信也 愛知県認知症疾患医療センター長、認知症専門医
森脇淳一 弁護士 元大阪高等裁判所判事(後見制度の被害者の訴訟を数多く手掛ける)

目次

制度に関心があっても、後見人がいくらもらっているか、利用したらいくらかかるか考えた事がある人は少ないかもしれない。後見報酬は、年度が終了したあとに仕事内容に応じて後見人等が申し立て、裁判所が決定する仕組み。横浜家庭裁判所が2011年に示している「成年後見人等の報酬のめやす」によると、基本報酬は月2万円で、管理する預貯金額が高くなるほど高額になる。資産額が1000万〜5000万円だと月3万〜4万円、5000万円以上で5〜6万円とされている。保佐、補助も同じだ。

「預貯金額により報酬が変わるので、被後見人にお金をなるべく使わせないようにして、報酬を増やそうという人もいる。20万円の年金があり、施設費用を払った残りの10万円は自由に使えていたのに、後見人をつけたら毎月2万円しか貰えなくなった。母親は自分の貯金を切り崩してお小遣いを出している障害者後見の例もある」と後見の杜代表の宮内氏は話した。

後見人は毎月の基本報酬のほか、不動産売却や遺産分割などを行った場合には、付加報酬(ボーナス)も申請できる。たとえば、施設の費用を払うために住まいを3000万円で売却した場合は、40万〜70万円と例示されている。ケースバイケースなのだが、自分の財産からいくら払っているか本人はわからない。家族にも知らされず、本人が死んでから知って驚いたという人がほとんどという。

 宮内代表が制度の利用を終了した家族10人に弁護士後見人にいくら払ったかアンケートを行ったところ、後見人費用は月額10万5000円、後見期間は平均5年3ヶ月で費用総額は平均661万5千円にものぼっていた。宮内代表はさらに、弁護士会が2023年4月に公表した「成年後見業務に関する報酬実態アンケート調査」を精査。「基本報酬に加えて、付加報酬を報酬していた弁護士は半数。つまり、専門性を有する弁護士が介入する必要がないのに、弁護士の後見人がついている。家庭裁判所が、弁護士を後見人として重用するのは、素人の家族よりも監督が楽だからと言われている」と問題提起した。

後見の杜 調べ
対象:後見制度を使い終わった10名の家族(高齢者後見8件、障害者後見2件)
実施:2023年10月
結果 ①後見人費用:月額平均10万5千円
②後見期間:平均5年3か月
③後見人費用総額:平均661万5千円

 実際に利用した家族が、「精神障害者の家族によかれと思って後見人をつけたが、弁護士後見人は10年間1度も本人に会わず、生活用品は私が用意していた。家族に知らせずに自宅も売却しまい、本人がなくなるまで1000万円以上の報酬を得ていた」と体験を話した。

見出しN2

 ビジネス化する後見人、弁護士だから安心なのは家裁だけ

「不動産売却や訴訟をすると、弁護士は弁護士としての報酬をもらえるので報酬が多くなる。月6万円でも弁護士の感覚では高収入ではないが、事件が増えないのに弁護士が増えているので、報酬は本業の仕事がないので後見をたくさん引受けて食っている弁護士がいて、そういうのが悪いことをしているのではないか」(森脇弁護士)、「制度で助かっている人も現実にいる。一部に悪徳弁護士がいるからといって、制度全部が悪いとはいえない」(川畑医師)などの指摘があった。

 会場では、病院経営をしている医師から「認知症の高齢者が入院したときに、身寄りがなく、後見人が葬儀の世話までしてくれて助かった。本人はお金がなくて、後見人はほとんどボランティアだと言っていた。お金がなない人の報酬はどうなっているのか」と質問があった。

 これに対して、後見の杜代表の宮内氏は「生活保護受給者やそれに準じる低所得者に後見報酬等を助成する自治体は増えている。在宅で月2万8千円程度。貧困ビジネス化している実態もある」と答えた。

 横浜家裁の例で計算してみると、後見制度を10年利用すると、基本報酬だけでも240万〜720万円を払わなければならない計算だ。若い障害者なら少ない障害年金の中から死ぬまで何十年もこの費用を払い続けなければいけなくなる。利用するには相当の出費を覚悟する必要がある。制度利用を考えるとき、誰かに勧めるときは「いくらかかるのか」「費用対効果があるか」を必ず念頭におくべきと思った。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次