「医師(患者)からみた成年後見制度の課題と対策」③類型は100%診断書で決まる!!

一般社団法人後見の杜(宮内康二代表)が2023年12月2日に開催したシンポジウム「医師(患者)からみた成年後見制度の課題と対策」レポート第3回は「能力判定」を巡る議論を紹介する。診断書はどう書けばよいかは、医師にもっとも関心の高いテーマだろう。「鑑定」はほとんど行われておらず、ほぼ100%診断書の対系が採用されている実態はぜひ知っておいてほしい。(ジャーナリスト 川名佐貴子)

【ディスカッション参加者 】
進行
甲斐一郎 東大名誉教授 日本老年学会前理事長
参加者
斎藤正彦 都立松沢病院名誉院長 精神科医
川畑信也 愛知県認知症疾患医療センター長、認知症専門医
森脇淳一 弁護士 元大阪高等裁判所判事(後見制度の被害者の訴訟を数多く手掛ける)

目次

「類型」のほぼ100%が医師の診断書で決まる実態、訴訟を起こす元被後見人も

 後見制度の利用を家裁に申し立てる際に医師の診断書が必要になる。診断書の最後には、医師の意見として、判断能力にチェックする欄が設けられている。家裁が類型を決めるにあたっては、正式な鑑定が本来は必要とされるが、省略されることが多く、現在は申立の5%程度しか実施されていないという。逆にいえば、95%において医師が診断書で判断した類型がそのまま通っている状況といえる。

議論に先立って、後見の杜代表宮内氏は、診断書が原因でトラブルになった事例を3例紹介した。そのうちの一つが、昭和7年生まれの男性のケースだ。行政が精神病院に入院させ、その間に首長が後見の利用を申し立てた。医師は、類型について診断書には「保佐」と書いていたが、何者かにより「後見」と修正されていた事実も後に発覚した。

後見制度の利用は原則死ぬまでやめられないが、申立時の状態より改善した場合は審判を取り消すことができる。この男性の場合、退院後、5か所の医療機関で診断書をとったが、「自立」2か所、「補助」2か所、「保佐」1か所でいずれも「後見」より軽かったが、見立てはバラバラだった。これにより、家裁は「後見」の取り消しを認めた。

日付病名類型画像
令和4年 4月アルツハイマー型認知症(保佐⇒)後見なし
令和4年 7月アルツハイマー型認知症後見なし
令和4年 9月※任意後見契約締結能力があったと考えることはできない
令和4年 9月正常範囲:非認知症自立あり
令和4年10月軽度認知障害保佐あり
令和4年10月認知症という状態にない自立あり
令和4年10月軽度認知障害補助あり
令和4年12月軽度認知障害補助あり
令和5年 8月3~8の診断書を踏まえ、2の鑑定医が2の鑑定を撤回・修正補助なし

当日家族が会場に駆けつけ、「行政は、父親の入院先も教えてもらえないのでまず居所を探すのが大変だった。病院から連れ帰った後は、認知症ではないこと、仮に認知症でも後見制度を使うほどにわるくなっていないことを証明するために、医療機関を何か所も回らなければならず、取り消してもらうのはとても大変だった。現場では一番重い後見類型が乱用されている。判定基準をつくって、研修を受けた医師しか診断書を書けないようにするなど適正化してほしい」と訴えた。

後見の杜宮内代表が支援した人の中には、診断書に「後見」と書かれて首長申し立てをされた人で、1年後には「補助」と鑑定され、後見を取り消せた人がいる。被後見人だった人は、通帳を持っていかれ灯油さえ満足に買えない暮らしを強いられたことから、最初の診断書を書いた医師を虚偽の診断書を作成したとし訴えたという。

訴訟にかかわった森脇弁護士は、「典型的なケースなので問題提起のために起訴したが、最終的には不起訴になった。裁判所は後見人を守ろうという姿勢が強く、その壁は厚く、裁判は負け続けている。後見に該当しない方なのに後見人がついて、外れる4年間に600万円も持っていかれた方もいる。診断書の作成は慎重にしてほしい」と話した。

  川畑医師は、起訴について、「当時の医療水準にのっとり、最善を尽くしたら、たとえ結果が間違っていても虚偽とは言えないはず。法的な責任を問うべきできない」と反論した。正式な鑑定が必要だという意見に対し、「診断書がちゃんとしていれば、鑑定まで必要はない。診断書を書く医師の資質を議論すべき」とした。

会場からは、最近初めて依頼をうけたという医師から「認知症の方は、日によって症状の出方が違う。診断書を書く場合はどこまで検査すべきか」と質問があった。

判断能力は検査では分からない、医師の思考狭める診断書の様式

「長谷川式スケールもMMSEも記憶をみるものであり、判断能力はわからない。私がいつも思うのは、医者に判断能力の判定を求めるのは迷惑。10分やそこらの診察でわかるわけがない。1万円と千円の区別がつくかとか、遺産を誰か一人に譲ったら喧嘩になるとか、自分の判断による周囲への影響を見極められるかとか、日々の生活の中での判断能力をみていくしかない」と川畑医師。自身は、障害が重くお金の管理ができず制度の利用が必要と考えられる場合のみ、診断書を引き受けようにしているので迷うことはないという。

一方、斎藤医師は、「自分が書かなくても、他の医者にいくだけだから診断書の作成は断らない」という。心理検査のCOGNISTAT(コグニスタット)と可能な場合は前頭葉機能検査を行っているという。しかし、詳しい資料を診断書につけることは求められておらず、実際に資料は必要ない。「専門医じゃない方がわかりやすくてよい」と裁判所に言われた経験もあるという。現在の診断書の書式は、「(意見を書くことは求められず)医師の思考を狭い範囲に押し込めていって最後にシロクロを決めろというスタイル。グレーゾーンが当たり前の医療の世界となじまない」と指摘した。

後見の杜宮内代表は、「類型に迷ったら軽い方にチェックする。自信がなければ診断書作成を断る」ことを医師に推奨している。「成年後見」になれば、好きに買い物もできなくなり、社会人失格の烙印を押されるに等しい。福祉と同じに考え、気軽に「一番重い後見類型にしてあげて下さい」と頼んでくる福祉関係者も少なくない中、医師がゲートキーパーになってほしいと利用者を代弁した。

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