一般社団法人後見の杜(宮内康二代表)が2023年12月2日に開催したシンポジウム「医師(患者)からみた成年後見制度の課題と対策」レポート第3回は「治療方針等」。医療同意を巡る議論を交えて紹介する。家族がいないときに誰に同意を求めればよいかは臨床現場では切実な問題だ。
ディスカッションには、日本老年学会前理事長で東大名誉教授の甲斐一郎東大名誉教授が司会を務め、斎藤正彦都立松沢病院名誉院長、認知症専門医の川畑信也愛知県認知症疾患医療センター長、元大阪江東裁判所判事の後見制度の被害者の訴訟を数多く手掛ける森脇淳一弁護士が登壇。(ジャーナリスト・川名佐貴子)
医療同意権がない後見人、手術同意書へのサインは無効
後見の杜の宮内代表が事例提供したのは、老人ホームに入居して死亡した女性のケース。腎臓の状態が悪化する中、弁護士後見人に対し、医師は透析をすべきか家族に聞いてほしいと伝えたが、後見人が家族に伝えないまま本人は死亡。会場では、本人の娘が「母親がどこにいるかも分からずに、4年も会えないまま死んだことを知らされた。後見制度は拉致監禁の制度だ」と訴えた。
一緒に暮らしていたが、行政が虐待を疑って、ある日突然連れて行ってそれっきりだった。以前はこういう場合は行政措置での入所だったが、介護保険以降は分離した直後にほぼ自動的に首長申立で、後見人をつけることが行われている。そうなると親子の関係調整を行う人は現れず、後見制度により物理的にも精神的にも永久に関係が断絶させられてしまうのである。親子だからしょっちゅう喧嘩もするのに、それを誰かが「虐待」と言い出すわけで誰にも同じことが起こる可能性がある。余談だが、介護家族の一人として、私はこれを「半径1mのホラー」と名付け恐れている。
家族は、「後見人がいても、医師は家族に伝える道義的な責任があるのではないか」と問いかけた。会場からは、「医師は本人に治療方針を尋ねる義務はあるが、家族に伝える義務はない」と意見があった。
では医師は誰に聞けばよいのだろうか。会場からは、「後見人は家族の代理と思っていたが、今日の話を聞いて違うとわかった。終末期の医療を決めるとき後見人と相談していいのか」と質問があった。
「法律的には後見人は、医療の契約はできるけれど、医療に関しての決定権はない。勘違いをしている人が多いが、手術の同意書を後見人に書かせるという対応は間違っている。成人で意思能力のない人の医療をどう決めるかは、法律には何も書いていない」と川畑医師は答えた。
自己決定から共決定、みんな責任を持つ体制が必要
斎藤医師は、医療同意権がないのは家族も同じと指摘。「権限をもっている人は誰もいない。医者は本人のことを知っているのが家族だからと思って相談するわけで、成年後見人の中には、医療同意はできないからノーコメントという人がいるが、議論の中に加わり関わった人みんなで考えるべき」と話した。
成年後見制度は、自分でサービスが選択できない人の意思能力を補完する制度として登場した。背景にあるのは、自己決定至上主義の考え方だ。斎藤医師は基調講演の中で、「自己決定・自己責任論は臨床にはなじまない。誰かの責任にするのではなく、関わったすべての人で共決定し、皆で責任を負うべき」と訴えていた。医療もチームで行われるようになっており、家族レス時代が本格化する中で、改めて考えるべき問題だ。
「官僚が大事なのは身内で、国民には目が向いていない」と元判事で裁判所の内情に詳しい森脇弁護士は指摘する。成年後見制度をよりよく見直していくには、法曹界内のみの議論に終わらせず、臨床からのボトムアップの議論が不可欠と感じた。