成年後見に関する書籍や研究報告書を紹介します。学びや活動の参考にして頂ければ幸いです。
2005年
きんざい「ジェロントロジー 加齢の価値と社会の力学」
後見の杜の活動である本人主義(後見される側の視点)はジェロントロジー(長寿社会の人間学)にあります。
この本は、ジェロントロジー分野の定番教科書で、米国で100万冊以上読まれていました。著者のロバート・アッチェリー先生はジェロントロジー三大理論の一つである「継続理論」を確立した方で、言葉の定義や調査結果の数字の厳格であるとともにユーモアがあり優しい方でした。晩年は仏教を実践され、デンバーの大学で先生と一緒に座禅を組んだことを懐かしく思います。
2008年~2011年
文部科学省「市民後見人養成に関する教育基盤と福祉型信託を活用した活動支援事業の試み」
東京大学の市民後見の始まり、もっと言えば、日本の市民後見の公的な第一歩と言えるでしょう。企画書を書き文部科学省から採択された時はとてもうれしかったです。
小難しい後見をどのようにお伝えすれば一般の方にわかってもらえるか、そして、行動に移してもらえるかを毎日考え、毎年、手作りの教科書を改訂しました。運営資金も潤沢でなく、小さな研究室を担当教授から頂き、そこに、大学の廃棄物センターからスタッフと拾ってきた机や椅子を並べて毎日終電まで仕事をしていました、若かったなあ。
2010年
小学館「成年後見制度が支える老後の安心」
市民後見があれば老後は大丈夫!ということを世に伝えたかった本です。
東大の市民後見の受講生の平均年齢は60歳でしたが、その中のお一人から「本を書かないか」とお声がけ頂き、1か月くらいで書き上げた記憶があります。最後の数日は神田界隈に缶詰状態、本の「終わり」は帰りの電車の中でパソコンを叩いた覚えがあります、その方が端的でかえってよいこともあるのです(苦笑)。
2012年
厚生労働省「成年後見の実務的・理論的体系化に関する研究」
後見の研究の多くは判例、制度、解釈でしたが「後見人は、何を、いくらでやっているのか」を数字で示したいと思い企画した研究です。いわゆる専門職後見人と親族後見人の実務を比較したかったという動機もありました。
結果的に、500件くらいの後見事務報告書と後見報酬審判をつないで比較したところ、いわゆる専門職が親族後見人より優位という事実は確認できませんでした。評価委員の先生方から、日本初の実証研究としてそれなりの評価を頂くことができ良かったです。
2013年
経済産業省「長寿国日本の底力」
後見を通じて日本経済を活性化させたいと考え、介護・医療の周辺領域として後見を位置づけ、後見の在り方を事業的に考察しました。要介護認定ならぬ「要後見認定」という概念と手法を開発し、偉い先生から「いいね!」と褒められましたが未だに実装には至っていません。
後見法人を支援・推進する後見機構も諸事情で解散となりましたが、昔取った杵柄として、今後、社会に実装してみようと思っています。前進あるのみ!
親族後見人がダメだと言われ始めた頃だったので、本当にダメなのか、ダメならどこでつまづいているのかを調べるとともに支援方法を固めたいと思って取り組みました。結果的に特にダメなところはなく、家裁に出す書類の作成が面倒程度でした。
この後、親族後見支援事業が全国で始まりました。個人的には、誰が後見人になるかというより、被後見人に対する効果と費用を軸に考えれば、自ずと誰が(供給)は決まってくると思っています。
九州で市民後見を頑張られている森山先生から「市民後見のところを書いて」と頼まれ担当致しました。市民後見は地域後見です。2022年現在、ちょっと下火になっていますが今後の再燃・変身・飛躍を期待します!
2015年
きんざい「金融機関のための後見人の見方」
後見人から「銀行、保険、証券会社の対応が未整備である」という相談を多く受けるようになっていたこともあり発刊しました。登記事項証明書の見方がメインとなっており、金融機関に限らず、病院や介護施設の方にも参考になると思います。
金融機関と後見については、その後もいろいろな事例があるので、機会があれば、より実践的なノウハウを共有したいと思います。
被後見人の居住用不動産の処分は、後見制度の運用の中でも慎重な手続きが求められます。よって、そのことをメインとしながら、司法書士に関係なく、売り主や買い主の意思表示を不動産事業者が見極め、後見無しで売買する姿勢を提案しています。
判例でも、司法書士は、本人確認と意思確認さえすればよく、表示された意思が本当かどうかまで見極めることは期待されておらず、見極める能力もないと示されています。
後見ジャーナリストともいえる長谷川学さんと、後見を使ったことによるトラブルを具体的に紹介しました。現状を「闇」と命名したハナダさんは流石です。
出版後「ようやく本当のことが記述された」など、医療、経済、法律分野のそれぞれの高名な方々からご好評いただきましたが、その後も、闇が晴れるどころか拡がっているような気がします。
2022年
青志社「成年後見制度の落とし穴」
成年後見制度利用促進法が本格化するいまこそ、後見で困った人の声を世に届けないといけないという気持ちに駆られ執筆しました。後見対策に戸惑う自治体さん向けのアドバイスも収めています。
さわやか福祉財団の堀田力先生から「告発本」と評されるほど、後見人の不行跡に加え、家庭裁判所内のまさか!を事実ベースで記述しています。
経済評論家の山崎元さんからは「後見を知らずに100年時代のマネーリテラシーは語れない」というお言葉を頂きました。後見が高齢者の家計や生活にどれほどの影響を与えうるかも描写しています。
法定後見の恥部を反面教師に、後見に代わる事業を展開することが重要と思うようになり、この本を契機に、後見の達人コースとみんなの後見センターを発案した次第です。