医師向け後見サポート事業開始のお知らせ

2023年10月17日
一般社団法人 後見の杜

 成年後見の診断書や鑑定書を作成したばかりに訴えられる医師、および、患者に対する治療をめぐり後見人と揉める医師の急増を鑑み、以下の事業を展開します。専門や学会の垣根を越え多くの医師にご利用ご参加頂ければ幸いです。

  • シンポジウム等を通じた情報提供(教育事業)
  • 個別事案の対応支援「ドクター後見110番」(相談事業)
  • 「成年後見制度を改善する医師の会」の発足(提言活動)

●Kick Off シンポジウム「医師(患者)からみた成年後見制度の課題と対策」

録画視聴のご案内

お支払い完了後に申込みフォームのURLをお送りします。
申込みフォームを送信されると録画視聴サイトへのログイン情報をお受け取りいただけます。

●ドクター後見110番(相談事業)

 成年後見制度に関することなら何でもご相談ください、48時間以内にメールで回答します。データは個人情報を伏せて整理し、会員にフィードバックします。
 例 患者以外から診断書の中身に要望を受けた場合の対応
 例 治療方針を巡り後見人と家族が揉めている場合の対応
 例 取消の診断書作成を頼まれた場合の対応

●成年後見制度の改善を目指す医師の会(後見改善医師の会)

 令和9年に予定される後見関連法の改正に向け、下記の活動を行います。

  • 診断、鑑定、治療に関する事例の収集・検討・評価(主にメールを活用)
  • 後見人等による不適切な行為への是正勧告
  • 医師や患者向け後見関連ツールの開発
  • 法改正に向けた提言
後見の杜医師向け事業専用サイト
医師向け事業専用サイト

〜医師が知っておくべき後見5箇条〜

※クリックすると内容が表示されます

1.後見・保佐・補助、迷ったら軽い方にチェック!

 後見類型は、お金が絡むことについては、いつも、何も、わからない状態を指します。つまり、コンビニで買い物ができたり、レストランで注文できるようであれば後見ではありません。銀行のATMでお金を下ろせるなら後見ではありません。千円札と一万円札を見せて、「どちらの価値が高いか」と聞き一万円札を指すようであれば後見ではありません。施設に入って空き家になった自宅を売るかと聞かれ、「誰も住まないから売っていい」あるいは「子や孫にあげたいから売りたくない」と言えるなら後見ではありません。
 後見を始める手続きにあたっては本人の同意は不要です。つまり、本人に内緒で後見開始の審判=完全無能力宣告が出されることがしばしばです。
 後見類型の運用が始まると、被後見人となった患者が銀行へ行って残高を聞いても門前払い、お金を下ろすことも許されません。後見人に「この老人ホームがいい」と言っても「被後見人のくせに何を言う」ということで意に沿わない施設に入れられてしまうこともしばしば。「後見に口無し」状態となります。

 保佐類型と補助類型は、お金に絡むことに関してわかることが一つ以上ある場合を指します。保佐は半分程度無能力宣告、補助は一部無能力宣告ですが、両者の区分は曖昧です。その判別は医師の主観に委ねられていますが、運用面では大きな違いが生じます。
 例えば、裁判所に、「保佐を始めてほしい」という手続きをとるにあたって本人の同意は不要。しかし、補助を始める場合、本人の同意が必要不可欠となります。保佐は本人知らずに始まることが多々ありますが、補助の場合、本人不知不在の開始はありえません。
 審判が出てからは、保佐の場合、被保佐人となった患者が以下の行為をするには保佐人の同意が必要不可欠となってしまいます。

・銀行からお金を下ろす
・お金の貸し借り
・不動産の売買や貸借
・自宅の増改築や大規模修繕

・誰かの保証人になる
・相続や贈与の決断
・裁判を起こす
・その他

 例えば、被保佐人が、「温泉に行きたいから銀行のお金を下ろしたい」と言っても、また、銀行が「うちはいいですよ」と言っても、保佐人が「だめ」と言えば、お金があってもお金が下せず温泉に行けません。しかし、補助の場合はそのような制限を受けることはほぼありません。

 「類型区分は不透明だからどれにもチェックしないで出す」という医師もいますがある意味正しい運用と言えるでしょう。「いずれ後見になるから保佐や補助ではなく後見でお願いします」というオーダーには応じないようにしましょう。誤診偽造につき後で問題となってしまうからです。以上、後見制度を巡って患者が被る制限や医師が負うリスクを考えると、診断書においてはより軽い方にチェックしておくことが無難と言えます。

2.診断書を引き受ける手続きを確認!

 「成年後見制度の診断書を書いて欲しい」と言ってくるほとんどは患者以外の人でしょう。診断して費用を得るには、医師と患者の間で準委任契約が成立しなければいけません。しかし、患者以外の人からの依頼で患者を診て費用を得てしまっている医師が如何に多いことか。

 患者からの依頼で診たとして、その結果が後見類型であれば、患者において依頼する能力がないと認定したと同義になります。つまり、医師と患者の間の契約が成立していない、要するに頼まれていないのだから、診断書も出せないし費用ももらえないはずなのです。

 医師の責任感やプライド、あるいは、患者以外の家族、弁護士、自治体等の意向に押し切られ、法的根拠なく本人を診断し費用を得ている医師が多くいますが、それ自体が問題と言えます。なお、成年後見制度の診断書の作成を断っても、いわゆる応召義務に違反しないと思われます。なぜなら、その診断書は生死に関わる緊急性がないからです。後見制度の診断書を引き受ける前に、手続きの正当性を確認するとよいでしょう。

3.後見人が本人の医療や介護に無頓着な場合は家裁へ通報!

 後見人の基本報酬は、何をしたかではなく、いくら持っている人の後見人になったかでおよそ決まります。被後見人の財産が5千万円あれば、後見人は特に何もしなくても年間60万円程度の報酬を得ることができます。

 基本報酬に加えボーナスが出ます。本人の不動産を売った場合、本人が相続した場合、本人の株や保険を処分して現金にした場合等で、数十万円から数百万円が被後見人の財産から後見人に移されます。

 本人の預貯金残高が減ると後見人の報酬が減るので、医療費や介護費用を抑えようとする後見人が散見されます。「治療は無駄、そんなことにお金を使うなら子供たちに一円でも多く遺した方がいい、私はその医療費を払いません」という後見人もいて、主治医と喧嘩になることもあります。

 後見人には身上配慮義務が課されています。端的には、本人がそうするだろうようにお金を使わなければならない、本人の意向を汲みながら仕事をしなければならない、という当たり前の義務ですが、後見報酬のメカニズムとこの義務が相反することがしばしばです。

 必要な医療や介護を受けさせない後見人がいる場合、二つの方法があります。

 一つ目は、後見人に、「なぜ、この医療や介護を受けさせないのか」と書面で照会すること。患者の権利に関するWMAリスボン宣言にある法的無能力の患者に記載された通りで、「患者の代理人で法律上の権限を有する者、あるいは患者から権限を与えられた者が、医師の立場から見て、患者の最善の利益となる治療を禁止する場合、医師はその決定に対して、関係する法的あるいはその他慣例に基づき、異議を申し立てるべきである」にならって行動するとよいでしょう。

 もう一つは、裁判所に苦情を入れることです。裁判所は、後見人を選び、報酬額を決めるのみならず、後見人の業務を監督する機関です。弁護士等の職業後見人は、患者よりも仕事をくれた裁判所を見る傾向が強いので、ケアカンファレンスに参加しない、参加してもまともな意見が言えない、緊急時や夜間早朝祝祭日の連絡が取れない場合なども、裁判所に苦情を入れると状況が改善されると思います。

4.取消の診断書、この作成には是非応じてください

 後見制度を使った人の不満で多いのは、「家族だから自分が後見人に選ばれると思って手続きをとったのに、見ず知らずの弁護士が後見人になった」という人選面です。自分で後見人を決める任意後見と違い、周囲に言われるがまま利用してしまう法定後見(後見・保佐・補助)人を誰にするかは裁判所の専権事項で、人選結果に文句を言うことは許されていません。
 最近では、後見される人の預貯金が500万円以上あると、支払い能力があるとみなし、裁判所は、家族がいても裁判所に営業登録している弁護士や司法書士を後見人とします。

 2番目に多い不満は後見人の報酬額です。金額は裁判所が決めますが基準や価格表はオープンになっていません。本人に代わって967万円の遺産をゲットしただけで、801万円の後見報酬を得た後見人もいます。年間100万円×10年間=1000万円以上取られたという利用者もいます。
 このような事実が知られるにつれうちの場合はどうなのか気になり、「報酬はいくら取っているのか、預貯金残高は今いくらあるのか」と本人や家族が聴いても教えない後見人がほとんど。「後見人に使い込まれている」と思う人が増えるのも頷けます。

 3番目に多いのは、財産だけ見て、本人の健康面に興味がない後見人に対する不満です。「施設や病院とのやり取りや支払いはやっておいてください」という後見人は多く、「細かいことはすべて私がやっている、後見人は通帳とハンコを管理しているだけ」という家族が如何に多いか。
 これで、必要な医療介護を受けさない=「お金は払いませんよ、あなたと病院(施設)で勝手に決めたことなのだからあなたが払えばいい」と言われるのだからたまったものではないでしょう。

 以上につき、「後見制度をやめたい」と言う人は少なくありません。そのような場合、後見取消・保佐取消・補助取消という手続きが用意されています。その際、類型が緩和した、つまり、後見なら保佐、保佐なら補助、補助なら自立という診断書(医師の意見)が必要となります。取消の診断書の雛形は開始の雛形と同じ。病気が治らなくても、取引能力が向上したり、代わりにしてもらう行為が終了したとなれば取消対象になってきます。「病気が治らないから類型も変わらない」という誤解を捨て、いまの患者の、特にお金が絡む部分の実態を偏見なく診てあげてください。

5.そもそも本当に後見制度が必要か?

 後見制度を使わなくても何とかなることは多い。実際、後見制度の対象となる認知症、知的・精神障害等を持つ人は1千万人以上いますが、後見制度を使っているのはわずか25万人程度、残りの975万人は後見制度を使わずに医療や介護サービスを受け、不動産や銀行とのやり取りができているのです。

 後見制度の必要性は、①本人が認知症だから、②本人独りでは取引することができないから、だけでなく、③家族等の支援者がいないから、④銀行等が後見制度の利用を(家族等がいても)取引の条件にしているから、というように四要件で構成されると考えると実務的です。ついては、後見の診断書を求められた場合、「取引先が後見制度の利用を要求しているか」聴き、そうでもないなら「後見制度の利用は考え直した方がいい」と助言することは有意義と思います。

 後見制度以外の方法の基本は、患者自身が取引に臨むこと。ある程度の受け答えができ、家族等が同席すれば銀行等もおよそ応じてくれます。家族等がいない場合、地域包括の職員等が同行することで、銀行のキャッシュカードが再発行できたり、遺産分割が終ることも少なくありません。

 各自治体の福祉課に紐づいている社会福祉協議会の「日常生活自立支援事業」も後見制度に替わって同様の効果をあげる手段です。ある程度の判断能力(保佐や補助)があれば、1回1時間1500円程度の利用料で、銀行へ行ってお金を下ろしてきてくれ、入院等の手続きを一緒にしてくれます。後見制度との違いは、不動産や相続などの大きな取引を支援の対象としていないだけで、無能力宣告を受けることもありません。NPO法人なども同様のサービスを安価に提供し始めているので、金銭管理サービス、病院・買物同行サービス、というワードで検索するといくつか見つかるでしょうから、その中から選んで利用するのもよいと思います。

 家族信託や身元保証という手法が後見制度と比較され、後見制度より良いと宣伝されることがありますが、それらは後見制度と目的も手法も異なるので、「混同しないよう」患者や家族に助言することで不要な迷いも消えることでしょう。

 下記より、後見制度の必要度、後見制度を使った場合の費用がおよそ査定できます。後見を検討している患者や家族への参考としてご紹介ください。

~背景と趣旨~
 「成年後見制度は診断書に始まり診断書に終わる」と言っても過言ではない。法律上裁判所は、医師の意見や鑑定なくして制度対象者に後見を始めることも終わらせることもできないことになっている。
 したがって、個々の患者に必要な取引およびその遂行能力を客観的に判定する手法があってしかるべきところ、そのような手法は開発されておらず、医師の主観に基づき判定が行われている感が否めない。
 裁判所の多くは、医師による診断書や鑑定を参考に後見・保佐・補助・非該当のいずれかを決定するが、患者にとっては、後見なら完全無能力者、保佐と補助は一部無能力者というレッテルを貼られることにほかならず、銀行へ行っても自分のお金さえ下ろせない状況が作られてしまう。
 自分の能力を卑下され、見知らぬ弁護士等の後見人に自分の財布を握られるなどの不自由を被り、年間数十万から数百万円の報酬を後見人に払うことになった原因を、医師の診断や鑑定ゆえと考え苦情、損害賠償、偽造診断書作成などで訴えられる医師が近年増えている。
 また、診断を巡る後見人VS家族・医師とのトラブルも生じている。
 かような実態を踏まえ、忙しい医師に対し、成年後見制度に関する実務上の要点を端的に教示し、後見業界や国に対し、患者のための制度運営になるよう改善策を提言するものとする。

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