日本公証人連合会発出の「精神障害者・知的障害者のために意思能力が欠ける未成年者の親からの任意後見契約締結の申入れの扱いについて」の通知(以下「基本通知」)Q&A

 日本公証人連合会は、令和3年12月24日、令和4年1月12日及び令和4年1月27日の3度にわたって、「精神障害・知的障害のために意思能力が欠ける未成年者の親からの任意後見契約締結の申入れの扱い」についての通知を発出(以下、それぞれの通知を3.12.24通知、4.1.12通知及び4.1.27通知と称し、総称は「(日公連)基本通知」という)しました。

 本稿は、この基本通知の内容を、分かり易くQ&A形式で説明するものです。
 その説明に当たっては、本基本通知が「任意後見契約」を原則として説明しているところ、現実には、「移行型任意後見契約」として公正証書が作成されているものが多いということを踏まえ、本稿では、「任意後見契約」と「移行型任意後見契約」の場合に分けて、それぞれにつき独立に読むことができるように、工夫しています。

1 「任意後見契約」の場合について

Q1.「基本通知」の内容は、なに?

A1.「精神障害・知的障害のために意思能力が欠ける未成年者の親からの任意後見契約締結の申入れの扱い」についての日公連の方針です。

Q2. 基本通知の対象となる契約は、なに?

A2. 「精神障害・知的障害のために意思能力が欠ける未成年者とその親との間の任意後見契約」です。
 具体的には、次の3通りの類型の契約が想定されています。
①単独親権者が子を代理し、自身を任意後見受任者として締結された任意後見契約。
②共同親権者である父母が子を代理し、当該父母の一方又は双方を任意後見受任者として締結された任意後見契約。
③未成年者の子の共同親権者の一方のみが子を代理し、他方の共同親権者を任意後見受任者として締結された任意後見契約。

Q3. その契約(以下「本契約」という)の効力は、どのようなものですか?

A3. 法務省の見解は、「本契約については、いずれも無権代理行為となるため、①子が未成年である場合は特別代理人により、②子が成年に達し意思能力を有している場合は本人により、③子が成年に達し意思能力を有していない場合は成年後見人により、それぞれ追認がなされない限り、その効力は、本人である子に及ばない」というものです。

Q4. 今後、当該任意後見契約を締結する場合、どうしたらいいのですか?

A4. 法務省の見解では、次のとおりとなります。A2の3類型で説明します。
①の場合は、家庭裁判所において特別代理人の選任を受けた上、当該特別代理人と当該単独親権者の共同の嘱託で、公証役場において任意後見契約公正証書を作成する必要があります。
②の場合は、家庭裁判所において受任者となる片方の共同親権者の特別代理人の選任を受けた上、当該特別代理人と他方の共同親権者が共同で子を代理し、受任者である共同親権者との共同の嘱託により、公証役場において任意後見契約公正証書を作成する必要があります。
③の場合は、公証人役場において、受任者である親権者の特別代理人と受任者とならない片方の共同親権者とが共同で未成年者を代理し、受任者となる共同親権者との間で任意後見契約を締結することが考えられるとされています。

Q5-1. 既に本契約を締結し、任意後見契約の登記の嘱託をした事件で、東京法務局でその登記が留保されているものについて(おおむね令和3年11月以降のものが留保されています。)は、どうしたらいいのですか?

A5-1. 東京法務局から、登記嘱託をした公証人宛て「当該無権代理に係る任意後見契約につき、特別代理人による追認手続きを採るか、又は、その追認手続きをせず登記の嘱託を取り下げる必要がある」旨の連絡がされる予定となっています。ただし、追認の機会を逸し、嘱託人に迷惑をかけることになることを予防するため、各公証人の判断で、嘱託人と連絡を採り、追認手続きを採るか、あるいは登記の嘱託を取り下げるかを聞き取り、その方針を決め、いずれかの手続きを採る旨連絡がされることになっています。
 いずれにしろ、当面は、当該公正証書を作成した公証人から、その作成者に連絡がいくことになっていますので、作成者としては、その公証人からの連絡を待つことになります。
 もっとも、それが待ちきれない人は、当該公証人に連絡を採って、その指示を求めるべきです。

Q5-2. 既に公正証書を作成し終えた任意後見契約で、東京法務局での登記がなされている者については、どうしたらいいのですか?

A5-2. この点については、上記のA3. に説明したとおり、法務省の見解では、「本契約については、いずれも無権代理行為となるため、①子が未成年である場合は特別代理人により、②子が成年に達し意思能力を有している場合は本人により、③子が成年に達し意思能力を有していない場合は成年後見人により、それぞれ追認がなされない限り、その効力は、本人である子に及ばない」というものですので、既に任意後見登記がされていても、元となる任意後見契約が無権代理行為に基づくものであることにより無効ですので、当該登記も無効であり、原則として、A5-1.に準じた取扱いになると考えられます。
 いずれにしろ、詳細は、当該公正証書を作成した公証人の役場に相談すべきでしょう。

Q6. その後の手続きはどうなりますか?

A6. 追認手続きを採ることができる場合とできない場合とで異なります。

1 追認手続きを採ることができる場合は、次のとおりとなります。

(1)

 委任者が現時点で未成年者である場合には、家庭裁判所において特別代理人の選任を受けた上、①の場合は当該特別代理人が追認することとなり、②③の場合は、日公連では、受任者でない片親と特別代理人とが共同で追認の意思表示すべきであることが推奨されていますので、作成者としては、当該任意後見契約公正証書を作成した公証人の公証役場に相談し、その指示に従うべきでしょう。

(2)

 委任者が現時点で成年に達しており、かつ、意思能力を有している場合には、当該委任者本人が追認を行うこととなります。

(3)

 委任者が現時点で成年に達しており、かつ、意思能力を有していない場合には、成年に達した当該委任者の法定後見人が追認を行うことになります。
 この場合、法定後見人が追認するかどうかは法定後見人の判断となります。
 そして、法定後見人が追認したとしても、その契約に基づき、任意後見監督人の選任を行うかどうかは、任意後見法第4条第1項柱書に規定する請求権者の請求に基づき、家庭裁判所が判断することとなります。

2 上記の追認手続きが採れない場合及び嘱託人が追認手続きを断念した場合には、いずれの場合も、当該任意後見契約は無権代理行為となり、本人との関係では、効力を有しないこと(無効であること)が確定することとなります。

Q7. 追認は、どのようにすればいいのですか?

A7. 追認は、法律的には、公正証書作成の方法と私署証書の認証による方法が考えられますが、日公連では、公正証書作成の方法が採られることになっております。
 公正証書作成の方法による場合、その公正証書は、日本公証人連合会では、受任者でない片親と特別代理人とが共同の嘱託で追認公正証書を作成することが推奨されています。この場合、公証人がその謄本を東京法務局に送付・提出することに基づき、東京法務局がその追認による変更登記をすることとなります。

Q8. 追認等の手数料は、どの程度かかるのでしょうか?

A8. 本件基本通知では、その公正証書作成の手数料は、在職中の公証人又はその公証人が退職した後においては日公連が負担することとされていますので、契約者には、手数料はかかりません。

Q9. 特別代理人選任の手続き費用の負担は誰がするのでしょうか?

A9. 特別代理人選任請求者が負担することになります。

Q10. 移行型任意後見契約について、上記の原則と違うところはどこでしょうか?

A10. 次の点を除いて上記の任意後見契約の場合と同様とされています。
 すなわち、上記のとおり、任意後見契約の追認は、公証人が作成する公正証書によることになりますが、移行型任意後見契約の場合は、通常業務の追認と同様、公証人が作成する公正証書あるいは公証人の認証のある私署証書によるという限定はありません。もっとも、上記の任意後見契約の追認手続きと同時に、財産管理契約及び委任契約についての追認をすることは差し支えないでしょう。

2 「移行型任意後見契約」の場合について

Q11. 「基本通知」の内容は、なに?

A11. 「精神障害・知的障害のために意思能力が欠ける未成年者の親からの移行型任意後見契約締結の申入れの扱い」についての日公連の方針です。

Q12. 基本通知の対象となる契約は、なに?

A12. 「精神障害・知的障害のために意思能力が欠ける未成年者とその親との間の移行型任意後見契約」です。
 具体的には、次の3通りの類型の契約が想定されています。
①単独親権者が子を代理し、自身を任意後見受任者として締結された移行型任意後見契約。
②共同親権者である父母が子を代理し、当該父母の一方又は双方を任意後見受任者として締結された移行型任意後見契約。
③未成年者の子の共同親権者の一方のみが子を代理し、他方の共同親権者を任意後見受任者として締結された移行型任意後見契約。

Q13. その契約(以下「本契約」という)の効力は、どのようなものですか?

A13. 法務省の見解は、「本契約については、いずれも無権代理行為となるため、①子が未成年である場合は特別代理人により、②子が成年に達し意思能力を有している場合は本人により、③子が成年に達し意思能力を有していない場合は成年後見人により、それぞれ追認がなされない限り、その効力は、本人である子に及ばない」というものです。

Q14. 今後、当該移行型任意後見契約を締結する場合、どうしたらいいのですか?

①の場合は、家庭裁判所において特別代理人の選任を受けた上、当該特別代理人と当該単独親権者の共同の嘱託で、公証役場において移行型任意後見契約公正証書を作成する必要があります。
②の場合は、家庭裁判所において受任者となる片方の共同親権者の特別代理人の選任を受けた上、当該特別代理人と他方の共同親権者が共同で子を代理し、受任者である共同親権者との共同の嘱託により、公証役場において移行型任意後見契約公正証書を作成する必要があります。
③の場合は、公証人役場において、受任者である親権者の特別代理人と受任者とならない片方の共同親権者とが共同で未成年者を代理し、受任者となる共同親権者との間で移行型任意後見契約を締結することが考えられるとされています。

Q15-1. 既に本契約を締結し、任意後見契約の登記の嘱託をした事件で、東京法務局でその登記が留保されているものについて(おおむね令和3年11月以降のものが留保されています。)は、どうしたらいいのですか?

A15-1. 東京法務局から、登記嘱託をした公証人宛て「当該無権代理に係る任意後見契約につき、特別代理人による追認手続きを採るか、又は、その追認手続きをせず登記の嘱託を取り下げる必要がある」旨の連絡がされる予定となっています。ただし、追認の機会を逸し、嘱託人に迷惑をかけることになることを予防するため、各公証人の判断で、嘱託人と連絡を採り、追認手続きを採るか、あるいは登記の嘱託を取り下げるかを聞き取り、その方針を決め、いずれかの手続きを採る旨連絡がされることになっています。
 いずれにしろ、当面は、当該公正証書を作成した公証人から、その作成者に連絡がいくことになっていますので、作成者としては、その公証人からの連絡を待つことになります。
 もっとも、それが待ちきれない人は、当該公証人に連絡を採って、その指示を求めるべきです。

Q15-2. 既に公正証書を作成し終えた任意後見契約で、東京法務局での登記がなされている者については、どうしたらいいのですか?

A15-2. この点については、上記のA3. に説明したとおり、法務省の見解では、「本契約については、いずれも無権代理行為となるため、①子が未成年である場合は特別代理人により、②子が成年に達し意思能力を有している場合は本人により、③子が成年に達し意思能力を有していない場合は成年後見人により、それぞれ追認がなされない限り、その効力は、本人である子に及ばない」というものですので、既に任意後見登記がされていても、元となる任意後見契約が無権代理行為に基づくものであることにより無効ですので、当該登記も無効であり、原則として、A5-1.に準じた取扱いになると考えられます。
 いずれにしろ、詳細は、当該公正証書を作成し、その原本を保管している公証人の役場に相談すべきでしょう。

Q16. その後の手続きはどうなりますか?

A16. 追認手続きを採ることができる場合とできない場合とで異なります。

1 追認手続きを採ることができる場合は、次のとおりとなります。

(1)

 委任者が現時点で未成年者である場合には、家庭裁判所において特別代理人の選任を受けた上、①の場合は当該特別代理人が追認することとなり、②③の場合は、日公連では、受任者でない片親と特別代理人とが共同で追認の意思表示すべきであることが推奨されていますので、作成者としては、当該任意後見契約公正証書を作成した公証人の公証役場に相談し、その指示に従うべきでしょう。

(2)

 委任者が現時点で成年に達しており、かつ、意思能力を有している場合には、当該委任者本人が追認を行うこととなります。

(3)

 委任者が現時点で成年に達しており、かつ、意思能力を有していない場合には、成年に達した当該委任者の法定後見人が追認を行うことになります。
 この場合、法定後見人が追認するかどうかは法定後見人の判断となります。
 そして、法定後見人が追認したとしても、その契約に基づき、任意後見監督人の選任を行うかどうかは、任意後見法第4条第1項柱書に規定する請求権者の請求に基づき、家庭裁判所が判断することとなります。

2 上記の追認手続きが採れない場合及び嘱託人が追認手続きを断念した場合には、いずれの場合も、当該移行型任意後見契約は無権代理行為となり、本人との関係では、効力を有しないこと(無効であること)が確定することとなります。

Q17. 追認は、どのようにすればいいのですか?

A17. 追認は、法律的には、公正証書作成の方法と私署証書の認証による方法が考えられますが、日公連では、公正証書作成の方法が採られることになっております。
 公正証書作成の方法による場合、その公正証書は、日本公証人連合会では、受任者でない片親と特別代理人とが共同の嘱託で追認公正証書を作成することが推奨されています。この場合、公証人がその謄本を東京法務局に送付・提出することに基づき、東京法務局が、その追認による変更登記をすることとなります。

Q18. 追認等の手数料は、どの程度かかるのでしょうか?

A18. 本件基本通知では、その公正証書作成の手数料は、在職中の公証人又はその公証人が退職した後においては日公連が負担することとされていますので、契約者には、手数料はかかりません。

Q19. 特別代理人選任の手続き費用の負担は誰がするのでしょうか?

A19. 特別代理人選任請求者が負担することになります。

Q20. 移行型任意後見契約のうち、任意後見契約以外の部分(財産管理契約及び委任契約又は(財産管理)委任契約)の部分についてのみ追認をすることはできますか?またその方法はどのようなものですか?

A20. 移行型任意後見契約の場合、移行型任意後見契約全体につき追認を受けるのが通常だと考えられますが、例外的に、任意後見契約と任意後見契約以外の契約(財産管理契約及び委任契約又は(財産管理)委任契約)のみの追認をすることも、当然のことながらできると考えられます。この場合、公証人が作成する公正証書あるいは公証人の認証のある私署証書によるという限定はありませんが、折角行った追認が無効となることを回避するためには、公証人の意見を聞きながらされる方がいいと思われます。
 また、その手数料の負担については、公証役場で追認をされる場合は、A18の場合に準じて扱われることとなりましょう。